微分幾何学的にみた微分方程式論 1

微分方程式は難しい

微分方程式は数学だけでなく物理、化学、生物はもちろんのこと、様々な分野で使われている対象です。そのため、微分方程式の解を求めることは大変重要なことですが、実際に解を求めることができる(具体的な解の表示ができる)微分方程式は数えられるほどしかありません。例えば次の微分方程式を考えてみましょう: $$ \frac{dy}{dx} = e^ {x^ 2} $$ この微分方程式は両辺を$ x$で積分することで $$ y = \int e^ {x^ 2} dx $$ となりますが、この右辺は初等関数で表示することができない(多項式関数、三角関数、指数関数およびそれらの四則演算と合成、またそれらを係数とする代数的関数方程式の解として表示できない)ことが示されています。

上のようなシンプルな微分方程式であっても具体的な解の表示ができないため、一般の微分方程式であればそれを解くということは極めて難しいということがわかると思います。

微分幾何学的にみた微分方程式

微分方程式は数多くの分野で現れ古くから考えられてきた対象であるため、解析的な対象ではあるものの代数学的な手法や幾何学的な手法も駆使され研究がされています。この連載では、特に微分幾何学的に微分方程式を捉える方法について紹介したいと思います。今回は第1回目なので、具体例を通してどのように微分方程式微分幾何学的に捉えるのかについて説明します。

本題に入る前に、まず区間$I$上で定義される関数$y(x)$に関する次の微分方程式を考えてみましょう: $$ y'(x)=y^ 2 (x) $$ この微分方程式は次のように解くことができます。まず、この微分方程式を$I_ 0:= \{ x \in I\ |\ y(x) \ne 0 \}$上で考えると、両辺を$y(x)^ 2$で割ることで $$ \frac{y'(x) }{ y(x) ^ 2} = 1 $$ を得ます。ここで上の式の両辺を$ x$で積分し整理することで $$ y(x) = -\frac{1}{ x+C} $$ が分かります(ここで$ C$は積分定数です)。ここで、上のような$y(x)$は0を値としてとらないため、$ I_0=I$となり上の$ y(x)$は解であることがわかります(このような解を微分方程式の一般解とよぶのでした。本当は$ y(x)=0$ となる関数も上の微分方程式の特異解とよばれるものになっているのですが、ここでは割愛させていただきます)。

さて、それでは実際に上の議論を微分幾何学的に考えてみます。まず初めに、三次元ユークリッド空間$\mathbb{R} ^3$を考え、そこの座標を$(x,y,y')$としておきます(座標の記号を$y'$と書いていますが、$y'$は$y$の微分ではなく単なる記号であることを注意しておきます)。このとき、次のような$\mathbb{R} ^3$の部分多様体 $$ R:=\{ (x,y,y')\ |\ y'=y^ 2\} \subset \mathbb{R} ^3 $$ を考えます。$R$は次のような曲面になっています:

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集合$ R$
このような設定で考えると、微分方程式$y'(x)=y(x) ^2$を解くというのは、上の部分多様体$R$内における特別な部分多様体を見つけることに等しくなります。実際にどうするのかというと、$\mathbb{R} ^3$の接束の部分束$C:= \{dy-y'dx=0\}$を考え、$C $に対する$R$内の"積分多様体"というものを考えます。今回取り扱う微分方程式については、次の多様体積分多様体になっています: $$ N_C :=\{ (x,y(x),y'(x)) \ |\ y(x)= -\frac{1}{x+C}\}. $$ 以下は$R$と$N_1$を同時に書いた図です:
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$ R$と$N_1 $
よって、$N_C$を$(x,y)$を座標に持つ$\mathbb{R}^ 2$に射影することで、最初の方に書いた解のグラフが得られることになります。

今回は第1回目ということで、数学的な部分の説明はほとんどできませんでしたが、今後はこのようなテーマについて記事を書いていきたいと思います。次回に関しては、今回登場した部分束$C$についてもう少し詳しく説明する予定なので、興味がある方は見ていただけると嬉しいです。