代数幾何学1: 代数的集合

最近、知り合いと代数幾何学の勉強会を始めたので、理解したことをまとめていきます。 とは言っても始めたばかりなので、今回はアフィン空間内の代数的集合を定義し、いくつかの性質についてまとめたいと思います。 (ここでは体上の多変数多項式環は知っているものとして話を進めていきます。)

代数的集合

$ k$を体とします。(実数体$ \mathbb{R}$や複素数体$ \mathbb{C}$を想定してもらえれば大丈夫です。)

このとき $$ \mathbb{A}^n(k) :=\{ (a_1, \ldots, a_n )\ |\ a_i \in k \} $$ を$ n$次元アフィン空間とよびます。$ k= \mathbb{R}$または$ \mathbb{C}$のときは、$ \mathbb{A}^n(\mathbb{R})=\mathbb{R}^n$、$ \mathbb{A}^n(\mathbb{C})=\mathbb{C}^n $です。

さて、早速$ \mathbb{A}^n(k)$内の代数的集合を定義しましょう。

定義 $ \mathbb{A}^n(k)$内の部分集合$ X$が代数的集合であるとは、$ k[x_1, \ldots, x_n]$の部分集合$ S$が存在して $$ X=V(S) := \{ (a_1, \ldots,a_n) \ |\ \forall f \in S, \ f(a_1, \ldots, a_n)=0 \} $$ となることと定める。

つまり代数的集合とは、多項式たちの零点として表すことができるような$ \mathbb{A}^n(k)$内の部分集合のことです。 また$ V(S)$については $$ V(S) = \bigcap_{f \in S} V(f) $$ という関係が成り立つことに注意しておきます。これについては定義通りに示せば良いので、ここでは証明を省略します。

以上で今回使う記号および用語の定義が終わったので、ここからはいくつかの具体例を見ていきましょう。

代数的集合の具体例

以下では図を書く都合上、$ k = \mathbb{R} $とします。

(1) 実係数2変数多項式$ f(x,y) = x^{2} + y^{2} -1$に対して

$$ V(x^{2}+y^{2}-1)= \{ (a_1,a_2) \ |\ a_1^{2} + a_2^{2} -1 =0\} $$ を考えます。皆さんご存知の通り、これは原点中心で半径が1の円になります:

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$ V(x^{2}+y^{2}-1)$

(2) 次に3次元アフィン空間内の代数的集合の例を与えます。実係数3変数多項式$ f(x,y,z)=x^{2}+y^{2}-z^{2}+1$に対して

$$ V(x^{2}+y^{2}-z^{2}+1)= \{ (a_1,a_2,a_3) \ |\ a_1^{2} + a_2^{2} -a_3^{2} =-1\} $$ を考えます。これは二葉双曲面とよばれ数学の様々な分野で登場する重要な例になります:

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$ V(x^{2}+y^{2}-z^{2}+1)$

この記事では代数的集合の具体例については以上で終わりにしますが、他にも様々なものがあります。興味を持たれた方は、適当な多項式についての代数的集合を計算ソフトなどを使って描画してみると面白いかもしれません。

それでは最後に代数的集合でない例を書いて終わりにしたいと思います。

代数的集合でない例

先ほど「代数的集合とは多項式の零点として表される集合」ということを書いたと思います。そのため、代数的集合でない例を作るためには多項式で表すことができないような関数を考るとよさそうであるということが分かります。ここでは$ y= \sin (x)$のグラフが代数的集合でないことを示します。

命題 $ X:=\{ (x,y) \in \mathbb{A}^2(\mathbb{R})\ |\ y= \sin(x)\}$は代数的集合でない。

(証明) 背理法によります。もし$ X$が代数的集合だったとすると、$ \mathbb{R}[x,y]$の部分集合$ S$が存在して$ X = V(S)$と書かれます。ここで、任意の$ f \in S$について$ f(x, 0) =0$が成り立ったとしましょう。このとき$a \in \mathbb{R}$を任意にとり$ (a, 0) \in \mathbb{A}^2(\mathbb{R})$という点を考えると、任意の$f \in S$に対して$ f(2m \pi,0)=0$を満たします。よって $$ \{(a , 0) \ |\ a \in \mathbb{R} \} \subset V(S) = X $$ となりますが、$X$は$ y= \sin(x)$のグラフであったため上の事実は成り立ちません。よって、任意の$ f \in S$について$f(x,0)=0$とはならないため、$f(x,0) \ne 0$となる$f \in S$が存在します。今そのような$f$を一つ取り固定します。

ここで次の集合 $$ T:= \{ (2m \pi,0) \in \mathbb{A}^2( \mathbb{R})\ |\ m \in \mathbb{Z} \} $$ を考えます。この集合$T$は無限集合であることに注意します。そうすると$X$の定義と代数的集合の性質から $$ T \subset X = V(S) =\bigcap_{g \in S} V(g) \subset V(f) $$ となりますが、これは0でない1変数多項式$f(x,0)$が無限個の零点をもつことになり矛盾します。これにより$X$は代数的集合でないことが証明されました。(証明終)

以上で今回の記事は終わりにしたいと思います。今後も、このように勉強したことなどをまとめていきたいと思いますので、よろしくお願いします。